真っ白な生地の上に、花鳥風月やさまざまなモチーフを描き出す彩色は、加賀友禅の工程の中心となる作業で、華やかなイメージのある反面、もっとも技術と、根気が必要とされる工程です。加賀友禅の彩色の特徴的な技法として「虫食い」と「先ぼかし」があります。虫食いは“わくらば(病葉)”の美を表すもので、点を打ち図柄に三色ぼかしを配します。先ぼかしは、花びらや葉のぼかしを入れる際、外から内に向かってぼかしを入れていく手法です。
職人は色がにじまぬよう、生地の裏から弱い熱を当てて、乾かしながら筆や刷毛で手早く色を差していきます。刺繍や箔置きなどの染色後の後加工が少ない加賀友禅は、「染めのこころが生きている」と言われます。
金沢には金沢らしい「色」があります。加賀友禅の彩色は、臙脂・黄土・藍・草・古代紫の加賀五彩が基調となっていると言われていますが、それは必ずしも形式的なものではなく、金沢の気候風土の中でもっとも美しく映える色なのです。
それはかつて華燭の日を飾った友禅染めの「花嫁のれん」にも卓越した染めの技術を見ることができます。
柿本
市郎 氏●かきもと いちろう |
県立工業高校を卒業後、加賀友禅金丸工房にて、人間国宝木村雨山氏、能川光陽氏の指導を受ける。加賀友禅新作発表会
石川県知事賞、伝統加賀友禅工芸展 金賞、加賀友禅新作競技会 中部通商産業局長賞など受賞多数。平成七年伝統工芸士に認定。加賀友禅に対する深い愛情が秀逸な作品を生み出す。「友禅作家として、お客さんに喜んでもらえる着物を作ることが基本です」。 |
■花嫁のれん |
「花嫁のれん」 |
伝統的な金沢の婚礼で用いられる「花嫁のれん」は、宝船、鳳凰などの吉祥模様と新婦の実家の家紋が染められた友禅のれんで、花嫁にのれんの様に柔順であってほしいとの願いが込められています。婚礼の日、花嫁は白無垢に着替えてこののれんをくぐり、仏壇参りを行います。その後は一、二年正月や祝事のときに飾られるだけという、大変贅沢なのれんです。 |
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