「猪苗代湖の想い出」
「白紋繻子地水仙唐花丸紋模様繍小袖」復元品 |
刺繍は古くは「繍い仏」と呼ばれ、仏の姿を描く方法として大陸からもたらされました。金沢にも室町時代に仏教とともに技術が伝わり加賀繍として定着、仏前の打敷や僧侶の袈裟を飾りました。江戸時代には染模様の文様をより際立たせるために刺繍が施されるようになりましたが、近代、特に第二次世界大戦後になると刺繍と友禅は別の流れとして発達しました。
しかし今、古い時代の作品の修復を通して、ふたたび加賀繍と加賀友禅のコラボレーションに注目が集まっています。
その代表例が「白紋繻子地水仙唐花丸紋模様繍小袖」の復元(模写)です。この小袖は徳川幕府三代将軍秀忠の二女の珠姫が、一六〇一年に加賀藩三代藩主利常の妻として前田家に輿入れする際に携えてきたもの。復元にあたっては金沢美術工芸大学の監修のもと、両業界の職人が製作にあたりました。バランスよく配置された二十二の花束は繍と友禅の手法を交えて仕上げられ、お互いにその美を引き立て合っています。
加賀繍の立体感と光沢、加賀友禅の写実的、絵画的な表現が融合することで、復元のみならず、手仕事でのみ創りあげることができる魅力あふれるアート・クラフトが生まれていくと期待されています。
■加賀繍専門塾 |
加賀刺繍協同組合では、七尾市の青柏祭の主役「でか山(曳山)」の正面を飾る「前幕」の復元に取り組んでいます。前幕は昭和二十七年に作られたもので、縦一・八メートル、幅五・五メートル。装束を着た二匹の猿が鈴や扇を手にして舞っている姿が刺繍されていますが、装束の色が落ち、生地のいたみや破れ、刺繍のほつれが目立っており、七尾市の依頼を受けた加賀刺繍協同組合は加賀友禅の協力を得て修復を進めています。復元された前幕は平成十六年の青柏祭ででか山を飾るほか、「山車祭サミット」でも披露される予定。先代の職人の手による作品が、今輝きを取り戻す事で、石川の伝統技術が次の時代へと伝えられようとしています。
資料提供:青柏祭でか山保存会 |
庄司
静子 氏●しょうじ しずこ |
加賀繍伝統工芸士。六十四年に技術習得のため小林刺繍舗に入門、以来四十年以上に渡って技術研鑽に励む。九十四年第十九回石川県伝統産業功労者表彰を受賞。近年は後継者育成にも尽力している。加賀友禅の鶴見氏との共同作業で、「水仙唐花丸紋模様繍小袖」「でか山
前幕」の復元に携わる等、友禅とのコラボレート作品にも積極的に取り組んでいる。「野の花や草木の自然なグラデーションに繍の着想を得ることが多いですね」。 |
加賀友禅作家 鶴見
保次 氏●つるみ やすつぐ |
加賀友禅伝統工芸士。加賀藩御用達染物業太郎田屋家督
鶴見太吉郎の孫として生まれる。金沢美術工芸大学の日本画家の下村正一教授に師事。七十六年に金沢市工芸展に初入選して以来、受賞多数。現在、日展会員、日本現代工芸美術家協会会員、石川県美術文化協会評議審査員、加賀染振興協会理事を務めるほか、県内の教育機関の非常勤講師として後進の指導にあたる。「加賀繍と加賀友禅が今後一つの流れとしてさらに発展していくことを望みます」。 |
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