啓発情報誌 ス・テ・キ
 
加賀繍 日本の美意識と伝統を描く絹の糸
加賀繍
タペストリー
タペストリー
初着
初着
初着
初着
古帛紗
古帛紗
袋帯
袋帯

 加賀の女性が、ひと針ひと針丹精に繍い上げる伝統のこころと技は、日本ならではの文化・風習や四季の風物詩と結びつき、人の手のぬくもりを伝える美しい意匠となります。現在、きものや帯などに施す伝統的な刺繍に加え、新たな応用が提案されています。
 初着(産着)もそのひとつ。日本に古くから伝わるお宮参りは、男児なら32日目、女児なら33日目に行われ、赤ちゃんに母親の実家から贈られた初着を掛け衣装として纏わせ、氏神様にお参りします。初着には、健やかに育ってほしいとの家族の温かな祈りが込められているのです。加賀繍の匠は色とりどりの絹糸や金糸、銀糸を巧みに用い、その祈りのこころを雅やかな意匠に込めます。四季の草花や古典から現代に至るさまざまなモチーフが、加賀女性の繊細な指先から描き出されていきます。
 加賀藩祖前田利家の妻まつも、加賀繍を得意とし、初着に花丸紋の刺繍を施したと言われています。加賀繍は、人々のこころと、和の風土・文化を描き出す、稀なる美の技と言えるでしょう。

工程

コラム 加賀繍専門塾
金沢市内のぬいの今井と小林刺繍舗では、平成八年より市からの委託事業として「加賀繍専門塾」を開講しています。各教室では市内在住の受講生が、三年間のカリキュラムで伝統技術の習得に励んでいます。繊細な加賀繍の技法を習得するには根気と熟練が求められ、手先の器用な人でも慣れるのに三年はかかると言われますが、加賀繍の技に魅せられた受講者は、日々、伝統の技術の研鑽に努めています。

匠の技 今井 フクヱ 氏●いまい ふくゑ
今井 フクヱぬいの今井に嫁いで以来六十余年、加賀繍に携わる伝統工芸士。平成八年勲七等宝冠賞を賜る。平成十三年には国の重要無形文化財指定の前田利家公着用「鐘馗陣羽織」を、金沢美術工芸大学と協力して復元。現在自ら加賀繍製作に努める傍ら、後進の指導・技術の保存に尽くす。
「昔は高級呉服と言えば加賀繍と言われたもの。織物にも染物にもない、独特の魅力があります」。

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