本物をひとつひとつそろえていく喜び
金沢漆器の大きな特徴は、東山文化の流れをくむ五十嵐道甫伝来の華麗で優美な加賀蒔絵です。蒔絵の技法はさまざまですが、この優美さを出しているのは肉合研出蒔絵。これは漆を塗り、金粉を蒔き、さらに漆を塗って木炭で研ぎ出す研出蒔絵と、金粉を盛り上げて立体感を出す高蒔絵の二つの技法を組み合わせたもの。高さを揃え、図案によっては遠近感を出すように細やかに研ぎ出す、そんな高度な技術をもった加賀蒔絵師たちが金沢漆器を支えています。
「うちのお客さんにはね、例えば硯箱をこしらえるでしょ、すると次は文台が欲しくなった、その次は…という具合に注文される方が多いんだ。最初はそんなつもりじゃなくても、一つ二つとあつらえていきたくなる、それが金沢漆器、加賀蒔絵の魅力かな」と語るのは加賀蒔絵師、清瀬一光氏。仕事の依頼の半分は業者ではなく、使い手であるお客さんという熱心なファンを持つ清瀬氏ですが、自分は作家ではない、あくまでも職人だと一徹です。「図案にしても新奇なものはない。親父のもの、その師匠のもの、それこそ道甫の時代から積み上げてきた伝来の図案がある。それが基本だよ」。加賀蒔絵の本流を守り、後続に伝えるのが自分の仕事という氏は、象牙や鼈甲、ガラスなど漆器以外の素材にも蒔絵を施すことを提案し商品化しました。これは加賀蒔絵の技術力を高め、可能性を広げること。そして金沢漆器のクオリティを高めることへとつながっているのです。
モダンなテーブルに映える繊細で艶やかな漆器
加賀藩御用達の調度品だった金沢漆器ならではの特徴は、蒔絵以外にもう一つあります。それは、造りそのものが瀟洒で繊細なこと。重厚な蒔絵を施すので下地作りは丁寧で堅牢ですが、木地そのものは薄づくりでシャープ。大方の箱物の角は丸くなっていますが、金沢漆器の指物(箱物の木地)は「隅角」といわれ、かすかに柔らかさが感じられる、キリッとした造り。豪華な加賀蒔絵に目を奪われがちですが、木地のディティールも金沢漆器の優美さの一因なのです。
このような造りの美しさは、手に取り使ってみて初めてわかるもの。蒔絵を施した美しく合理的な重箱もぜひ日々の食卓で活用させたい。となれば、15cm×15cmくらいの小さめのお重がおすすめ。一人分の料理やお菓子などを盛り込んで銘々皿として使えます。また、木地の薄さを生かしたしぶい銀色の錫縁の袴盆は、端然とクールな印象。普段使いできる手頃な品です。盆の上にはやはり薄手で細めの漆椀などをのせて、繊細なコーディネイトでまとめるときれい。椀にはお汁粉や葛湯などを入れて、おもてなしのデザートにいかがですか。
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