啓発情報誌 ス・テ・キ
 古き良きものを現代に 希少伝統工芸品
金沢で製作されている伝統工芸の中には、加賀象嵌や二俣和紙、金沢和傘、加賀提灯、加賀毛針など、技術継承者が減少し、希少となったものが少なくありません。
しかし、その手仕事が持つ温かみや美しさに変わりはなく、現代の暮らしを彩る新商品も登場しています。
希少だからこそ貴重。価値ある逸品がここにあります。
象嵌ルーペ・ 象嵌ワインオープナー・象嵌ブックマーカー・ビアマグ
■象嵌ルーペ
・ 象嵌ワインオープナー
・象嵌ブックマーカー
・ビアマグ
紙布帯&紙布バッグ
■紙布帯&紙布バッグ
和傘
■和傘
風鈴
■風鈴
提灯
■提灯
金沢・クラフト広坂
■金沢・クラフト広坂
坂井貂聖 斉藤博 松田弘
●坂井貂聖(さかいてんせい)/1944年石川県金沢市生まれ。本名、章一。60年に上京し金工技術を取得。帰沢後、高橋介州氏、中川衛氏に師事、加賀象嵌を学ぶ。83年より現代美術展、金沢市工芸展などにおいて、今日まで連続受賞を果たしている。 ●斉藤博(さいとうひろし)/1939年石川県金沢市生まれ。19歳から、二俣和紙作家・坂本宗一郎氏のもとで手漉き和紙技術を学ぶ。29歳で独立。加賀奉書紙のほか、和紙原料の素材を活かした多様な和紙を創作している。 ●松田弘(まつだひろし)/1924年石川県金沢市生まれ。傘職人の親方であった父について12歳から傘づくりを始め、現在、一貫生産を続ける国内唯一の和傘職人。店先ならびに全国各地で開催される石川県の物産展でその技を披露している。

坂井貂聖氏作品紹介
接合象嵌飾箱「天空の瞳」&接合駱駝紋象嵌飾筥
接合象嵌飾箱「天空の瞳」&
接合駱駝紋象嵌飾筥

素地の金属は銅。黒く変色加工を施した表面は漆器のような光沢です。「天空の瞳」は平成10年度金沢市工芸展受賞作品。
接合象嵌飾箱「天空の瞳」¥500,000、接合駱駝紋象嵌飾筥¥450,000

シャープで端正な金属の美しさが生きる加賀象嵌
 象嵌の技法はさまざまですが、素地を彫るときに切り口の底部を外側に向けて広げ、異種の金属を打ち込み、磨き上げて素地と模様を平にする技法を平象嵌といい、加賀象嵌といえばこれを指します。切り口の底部を広げることで打ち込まれた金属は絶対に抜けることがなく、藩政時代には鐙の加飾として重用され、幕府や諸大名への贈り物としても第一級品でした。
 作り手として坂井貂聖氏はその魅力を「組み合わされた異種の金属の色や光沢が発する美しさ、金属を自由自在に使って紋様を描く面白さ」と語ります。自在と言っても0コンマ何ミリという極細の線を刻み、さらにその底部を広げるという極微の作業。道具も手づくりです。加賀象嵌は美術工芸品にとどまらず、ジュエリーにもその世界を広げてきました。坂井氏も金や銀、プラチナを使い、良質の天然石をあしらったブローチやチョーカーなどを製作。クールな輝きが見る者を魅了します。

紙漉きどころの気概高品質を誇る二俣和紙
山間の里。藩政時代から藩御用の料紙を漉いてきた土地です。「いい手漉き和紙は時間が経つと柔らかな風合いになり、品が出る」と言う斉藤博氏は、原料である楮や雁皮、三椏を、紙の使用目的に応じてアク抜きをし、組み合わせ、漉き分けます。「毎年、画家や書家の先生に紙を試してもらって意見を聞くんだ」。そして独自の工夫を凝らし、使う人にとって最高の和紙を目指すのです。以前、ある寺院から仁王像の胎内に納める写経用の和紙を依頼されました。次のご開帳は300年後。それまで持つ紙でなくてはなりません。気の遠くなるような話ですが、「永久保存の紙をといわれれば千年は持つ紙を漉くよ」と斉藤氏はこともなげ。伝統の手漉き和紙職人は悠久の時の流れに身を置いているようです。

古都の情緒と自然風土に育まれた金沢和傘
 和傘製作は竹の傘骨作り、骨組み、紙貼り、仕上げの四職で、30もの工程があり、それぞれが分業で行われてきました。金沢は雨や雪が多いので、和傘はとても頑丈な造りです。骨組みも太く、厚手の五箇山和紙が多く使われています。
 金沢にもかつて相当数の傘職人がいましたが、現在は松田弘氏のみ。しかも骨組みから仕上げまで一人でこなす日本唯一の職人で、雨傘だけでなく、特大の野点傘から可憐な舞台傘まで、注文や修理が全国各地から舞い込みます。「お客さんに好かれるいいものを作っていきたいねえ」という松田氏の傘は、粋な蛇の目傘、可愛い千代紙を張った千代傘、友禅作家が絵付けした友禅傘、自身で文字を入れた手描き傘など種類豊富。「床に置いたライトに立てかけてインテリアにするというガイジンさんもいるよ」と笑う松田氏。それって、いいアイディアかも。


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