黄金の輝きはそのままに紙より薄く打ち延ばす箔打ちの技
金沢箔として最も知られているのは金箔でしょう。金箔は金の小片を1万分の2〜3mmに打ち延ばしたもの。向うが透けて見えるほど薄く、手でこすれば消えてしまうような儚さです。この打ち延ばしをするのが箔打ち職人。高橋幸一氏は金箔と、金箔よりも打ち延ばしが難しいプラチナ箔も手がけています。「金箔打ちは、千分の1mmの金を打ち紙にはさみながら1600〜1700枚重ね、袋革で包み、それを直径約12cmの機械のハンマーで叩くんです。ハンマーの打ち下ろしは1分間に350回。摩擦熱で熱くなるので、冷ましながら重ねを替えて、またハンマーにかける」。かつて金槌で手打ちしていた箔打ちは昭和に入って機械打ちに変わりましたが、どの部分をどれだけ打てば金箔がムラなく薄く延ばせるかはやはり職人の経験と勘にかかっています。現代のハイテク技術でもこれを越えるものはありません。「あのほっこりと落ち着いた金の色や艶は人の手をかけないと出ない。金箔は漆を施した仏壇に押す(付ける)でしょ。いい金箔はね、漆の表面にすうーっと吸い込まれていくんだ」。門外漢にはどれも同じように見える金箔ですが、さすがに職人の目は厳しい。「ああ、いい仕事をしたなという日は口笛のひとつも出るんだが、そんな日は1ヶ月に十日あるかないかだねえ」と高橋氏は苦笑い。箔打ち50年のベテランにして、その目はまだはるか高みを見つめています。
金箔の輝き、銀箔の微妙な色合いをさりげなく暮らしにとり入れる
金沢箔は彩りの材料として衣食住のあらゆるものに使われています。特に金箔は仏像仏壇をはじめとして和服や美術工芸品の加飾など、格の高さや豪華さを強調するに欠かせないもの。時代を経ても変わらぬ金の輝きは太古から人々を魅了し続けてきました。
この輝きを暮らしの中にも生かしたい。でも、総金箔押しの調度品は場所や空間を選びますし、あまりに直接過ぎて興ざめ。あくまでも品よく。そんな工芸品を選ぶポイントは、生地そのものの品質が高いこと。自然素材ならいいですね。木やガラス、石、和紙、布物なら木綿や麻、絹など、本物の天然素材は温かみがあって、金の輝きや質感をしっかり受け止めてくれます。金箔は部分的に散らしたり、刷毛目のようにあしらったりとアクセントに用いられたものが使いやすいのですが、総金箔を楽しむなら思い切り遊んでみるのも手。抽象的な図案やフォルムがユニークなオブジェはキッチュな雰囲気を演出してくれます。
また、最近は銀箔工芸品のアイテムも増えています。銀箔は変色が難点とされてきましたが、昔から屏風などはかえって雅趣があると珍重されました。銀箔は加工によってさまざまな色が出せますし、光の加減による微妙な色のゆらめきが魅力。新しい金沢箔の製品として要チェックです。
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